SESエンジニアが自社開発に転職すると年収は?

SES・受託開発のエンジニアで、自社開発への転職を考えている方向け。SESの年収が伸び悩む本当の理由と、自社開発で年収を落とさず転職するための条件を、公的統計をもとに解説します。

「客先常駐は3社目。案件が変わるたびに、また一から人間関係を作り直す。この単価、あと10年続けられるのだろうか」
筆者が面談するエンジニアからも、同じ種類の悩みを聞きます。SESエンジニアの年収は、経験を積んでも実感しにくいものです。結論から言うと、これは「職種としての年収が低い」という話ではありません。むしろ「契約構造が年収の伸びを抑えている」というのが実態です。この記事では、まず公的統計で受託開発と自社開発の年収を比較します。そのうえで、SESエンジニアの年収が伸び悩む理由を、多重下請け構造から解説します。最後に、自社開発への転職で年収を落とさない条件を整理します。なお、視点は有料職業紹介事業者(株式会社LX)としての実務経験です。

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SESエンジニアの年収は本当に低いのか、公的統計で確認する

「SESは年収が低い」「受託は自社開発より稼げない」。こうした話は、SNSや転職メディアでよく見かけます。まず、これが統計的に正しいのかを確認しておきます。

受託開発SEと自社開発(Webサービス開発)SEの年収は、統計上ほぼ同一

厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」には、2つの職業ページがあります。「システムエンジニア(受託開発)」と「システムエンジニア(Webサービス開発)」です。そこで、令和7年賃金構造基本統計調査にもとづく数値を比較しました。結果は次のとおりです。

指標 受託開発SE Webサービス開発SE(自社開発系)
平均年収 578.5万円 578.5万円
平均年齢 37.1歳 37.1歳
有効求人倍率(令和7年度) 2.54倍 2.54倍
求人賃金・月額(令和7年度) 36.4万円 36.4万円
自営・フリーランス比率 21.1% 20.0%

ほとんどの数値が同一なのは偶然ではありません。なぜなら両者は、厚生労働省編職業分類で同じ「ソフトウェア開発技術者(WEB・オープン系)」に区分されているからです。つまり、「受託開発だから低い」「自社開発だから高い」という図式は、公的統計のうえでは成立しません。そのため、年収を左右しているのは職種の違いではなく、別の要因だと考えられます。なお、自営・フリーランス比率も、どちらも20%前後と近い水準です。したがって、受託開発だから会社員が多く、自社開発だからフリーランスが少ない、という傾向差も統計上ほとんどありません。

それでも「年収が上がらない」と感じる、もうひとつの理由

しかし、統計上の平均が同じでも、現場の実感が伴わない人は多いはずです。その理由は、平均値の内側にある「契約構造」の違いにあります。次の章で、経済産業省の資料をもとに整理します。

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SESエンジニアの年収が伸び悩む本当の理由は「多重下請け構造」

経済産業省は令和2年12月に、「DXレポート2(中間取りまとめ)」を公表しました。同資料は、受託開発型のベンダー企業の実態を指摘しています。すなわち、大手ベンダーが元請けとして仕事を受け、その一部を下請け企業へ再委託する「多重下請け構造」です。

下請け階層が増えるほど、利益とキャリアの伸びしろが削られる

同資料は、この構造の課題を挙げています。まず、利益水準が低くなるため、売上総量の確保が優先されます。そのため、労働生産性を高めるインセンティブが働きにくくなります。結果として、技術開発への投資も難しくなります。これをエンジニア個人の視点で言い換えると、次のような連鎖が起きます。

  • 顧客が支払う契約金額から、元請け・二次請け・三次請けと段階を経るごとに中間マージンが差し引かれる
  • 末端の技術者に配分される原資そのものが、契約段階で目減りしている
  • 企業側も低利益率のため、教育投資や評価制度の改善に資金を回しにくい

つまり、SESエンジニアの年収が伸びにくいのは、能力の問題ではありません。むしろ契約構造上、年収の原資が最初から目減りしているケースが多いのです。この構造を、経産省は「ベンダー企業のジレンマ」とも表現しています。

案件を変えても年収が変わらない、よくあるパターン

SESでの評価・昇給は、多くの場合「常駐先の評価」では決まりません。むしろ「自社の等級制度」で決まります。そのため、客先で高く評価されても、年収に反映されにくい仕組みになっていることがあります。案件を変えても年収レンジが変わらないと感じる場合、この等級制度の壁にぶつかっている可能性があります。そもそも等級テーブルそのものを見直す機会がない限り、案件を変えるだけでは年収の天井は動きません。したがって、この壁を越える手段のひとつが、評価の仕組みそのものが異なる企業へ移ることです。

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面談の現場から:SES・受託を経験した人が語ったこと

ここまでは構造の話でした。では、実際にSES・受託を経験した人は、何を理由に動いたのでしょうか。筆者が2026年に面談したエンジニアの話を紹介します。

※ 面談でうかがった内容は、個人が特定されないよう年代・職種などの要素だけを残し、発言は趣旨を変えない範囲で読みやすく整えています。

単価を決めていたのは、自分ではなかった

20代後半で自社プロダクト企業に勤めるエンジニアの方は、キャリアの始まりが客先常駐でした。大手SIer系や物流系の現場を経験したあと、フリーランスに転じています。理由をうかがうと、仕事の中身ではありませんでした。

20代後半
エンジニア

客先常駐でやっていたんですけど、仲介会社がいることで、自分の思いどおりの単価交渉ができなかったんです。

SESができるんだったら、フリーランスでいけるだろうと。

この方はその後、2020年に正社員へ戻り、今は自社プロダクトの開発に携わっています。つまり、抜け出すきっかけは「取り分を決める立場にいない」ことへの違和感でした。前の章で見た多重下請け構造が、当事者の実感として表れた例です。

営業の側から見ると、自分の立ち位置が分かる

IT歴4年のエンジニアの方は、ヘルプデスクから経歴を始めました。その途中で、SESの営業を1か月ほど経験しています。案件を売る側に立ったことで、見えたものがあったそうです。

IT歴4年
エンジニア

案件を見ると、自分のスキルと案件ベースとが、絶対的に合わない。乖離しているのは、もう分かっているんです。

案件の要求水準を知ると、自分の現在地が客観的に分かります。一方で、SESの中にいるだけでは、この比較の機会はなかなかありません。だからこそ、転職の前に一度、市場の物差しで自分を測っておく意味があります。

評価されるのは、どの会社にいたかより「何をしてきたか」

SIer系の会社でキャリアを始めた30歳のフロントエンドエンジニアの方は、いまはBtoB SaaSの会社で3社目です。年収は600万円前後で、希望は800万円以上でした。このように、受託側から自社開発側に移ったあとも、年収をもう一段上げたいと考える人は少なくありません。そこで大切になるのが、経験の伝え方です。筆者は、別の面談で次のようにお伝えしています。

森岡
(筆者)

エンジニアの相場は、学歴よりも、どういう前職でどういうことをしてきたかで評価されるほうが強いんです。

したがって、SES・受託の経験は、それだけで不利にはなりません。問題は、その経験を「何を任され、何を判断したか」まで言葉にできているかどうかです。書き方はフリーランスエンジニアの職務経歴書の書き方が参考になります。また、年収だけを最優先するなら、自社開発以外の選択肢もあります。比べ方はフリーランスエンジニアが正社員で年収を下げない方法で整理しています。

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自社開発に転職すると、年収の構造はどう変わるのか

ここまでの整理を踏まえると、自社開発への転職が年収に効く理由が見えてきます。それは「自社開発だから単価が高い」からではありません。むしろ、次に挙げる要因によるものです。逆に言えば、これらを理解しないまま転職すると、想定と違う結果になりかねません。「自社開発は稼げるらしい」という漠然とした期待だけでは、年収は変わらず落胆することもあります。

中間マージンが発生しない、評価の直結構造

まず、自社開発企業には、他社への再委託という中間層がありません。そのため、エンジニアの成果は直接そのまま売上・利益に貢献します。評価者は多くの場合、日々一緒に働く上長やプロダクトオーナーです。したがって、貢献が給与・賞与・昇格に反映されるまでの距離が短くなります。つまり、単価という「稼働時間の切り売り」ではなく、事業への貢献度で評価される構造です。

「経験年数」より「言語化された実績」が評価される

自社開発企業の採用では、担当した案件数はあまり重視されません。むしろ、要件定義への関与度や設計判断の妥当性が見られます。また、障害対応やチーム内での役割といった「再現性のある実績」も重視される傾向があります。SES・受託の現場で複数案件を経験してきたこと自体は強みになります。しかし、それを自社開発の言葉に翻訳できていないと、評価に結びつきません。

職務経歴書は「常駐先の羅列」から「事業貢献」の言葉に翻訳する

そこで、実際にどう書き換えるかを簡単な例で見てみます。

翻訳前(常駐先の羅列) 翻訳後(事業貢献の言葉)
A社常駐。会員管理システムの改修を担当。 会員数50万人規模の基幹システムで、要件定義から結合テストまでを担当。仕様の曖昧な箇所を顧客に確認し、手戻りを未然に防いだ。
B社常駐。バッチ処理の保守運用。 夜間バッチの障害対応を月次で実施し、原因調査から恒久対策の提案までを一人称で遂行。障害件数を前年比で低減させた。

ポイントは、常駐先の社名や案件名ではありません。むしろ「何を任され、どう考え、何が変わったか」を書くことです。そして、この視点はSES・受託の経験でも十分に書けます。むしろ複数案件を渡り歩いた分、比較対象が多くなります。そのため、判断の根拠を具体的に語れるという強みにもなります。

年代別に見る、自社開発系エンジニアの想定年収レンジ

厚生労働省は2023年度に、委託調査(ITSSレベル別給与データ)を実施しました。この調査では、スキルレベルに応じた年収レンジが示されています。

ITSSレベル別 想定年収レンジ SESエンジニア 自社開発
ITSSレベル別の想定年収レンジ(設計・構築、第一四分位〜第三四分位)

重要なのは、この年収レンジを分けているものです。「SESか自社開発か」という契約形態そのものではありません。むしろ、ITSSレベル、つまり技術力の段階です。したがって、自社開発への転職は、この技術力を正しく評価してもらう「場」を変える選択です。技術力そのものを底上げするわけではありません。そこで、転職前にいまの自分がどのレベルにあるかを把握しておくことが、交渉の土台になります。

需要と供給のギャップも、交渉を後押しする材料になる

経済産業省は平成31年4月、「IT人材需給に関する調査」を公表しました。同調査によれば、需要の伸びが大きい高位シナリオでは、2030年のIT人材需要は192万人と試算されています。一方、供給は113万人にとどまります。そのため、差し引き約79万人が不足する計算です。さらに、有効求人倍率が2.54倍という水準もあわせて見てください。したがって、経験のあるSES・受託エンジニアが自社開発へ移る際の交渉環境は、決して不利ではありません。

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年収を落とさず転職するための実践ロードマップ

3つの視点

視点 内容
① いまの技術レベルを把握する ITSSレベル相当の実力を客観視し、想定年収レンジの土台にする。
② 経験を「事業貢献」の言葉に翻訳する 案件数ではなく、要件定義・設計判断・障害対応など再現性のある実績を語れるようにする。
③ 契約構造の違いを理解して交渉する 「自社開発は高収入」という期待ではなく、評価直結構造を根拠に交渉する。

陥りやすい失敗パターン3つ

パターン1:単価の高さだけを訴求してしまう。「常駐先ではこの単価でした」という説明は、自社開発企業には通用しません。なぜなら、単価は商流の中間マージンを含んだ数字だからです。企業側が見ているのは、あなた個人の生産性・判断力・成果です。

パターン2:案件の羅列で終わり、事業貢献に翻訳できていない。常駐先を時系列で並べただけの職務経歴書は、選考でよく見られる失敗例です。そこで、社名ではなく「何を任され、何を変えたか」に書き換えましょう。それだけで、伝わり方は大きく変わります。

パターン3:「疲れたから辞める」というネガティブな動機のまま面接に臨む。案件のミスマッチや評価制度への不満は、転職の正直なきっかけであることが多いものです。ただし、それだけを動機として語ると、面接官に懸念を与えます。「環境が変われば同じ理由でまた辞めるのでは」という懸念です。そのため、不満の裏にある「本当はどう働きたいのか」を、前向きな言葉に変換しておくことが重要です。

なお、「腰を据えて働きたい」が一番の理由なら、事業会社の社内SEという選択肢もあります。社内SEへの転職はSIer・SESから社内SEへ転職する完全攻略で解説しています。

後悔しないための実践4ステップ

  1. いまの市場価値を測るまず、契約形態にかかわらず、いまの技術力がどの年収レンジで評価されるかを把握する。
  2. 担当案件を「事業貢献」に翻訳する(職務経歴書)次に、要件定義への関与度や設計判断、チームでの役割を軸に書き直す。
  3. 面接での深掘りに備えるまた、「なぜ自社開発か」を収入面だけでなく当事者意識で語れるようにしておく。
  4. レンジで交渉する最後に、根拠のあるレンジで提示・交渉する。条件面は担当者を介して調整する方法もある。

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よくある質問(FAQ)

年収・統計についての質問

SESエンジニアは自社開発企業への転職で不利になりますか?
不利とは限りません。むしろ、複数案件を経験している点や、多様な技術・業務知識に触れてきた点は評価されます。ただし、案件名の羅列だけでは伝わりません。そのため、担当範囲と成果を具体的に説明する準備が必要です。
受託開発と自社開発で、平均年収に差はありますか?
厚生労働省job tagの統計上、受託開発SEとWebサービス開発SEの平均年収は、いずれも578.5万円です。つまり、有意な差はありません。年収差を生むのは職種そのものより、多重下請けなどの契約構造です。

転職・書類についての質問

何年くらいの経験があれば自社開発に転職できますか?
年数そのものより、要件定義・設計判断・障害対応などをどこまで担ってきたかが重視されます。目安は、ITSSレベル3以上(設計・構築の実務経験)です。それがあれば、選考の土台になりやすいとされています。
多重下請け構造とは何ですか?
顧客から仕事を請けた元請け企業が、その一部を二次請け、三次請けへと再委託していく構造です。経済産業省「DXレポート2」では、この構造が課題として指摘されています。すなわち、低利益率と生産性向上インセンティブの欠如です。
自社開発に転職すれば必ず年収は上がりますか?
いいえ。年収は、企業から提示される額とあなたの市場価値、交渉次第で決まります。統計上、受託開発と自社開発の平均年収に差はありません。そのため「転職先の業態」よりも「実力の伝え方・交渉の仕方」が結果を左右します。まずは想定年収レンジを把握し、根拠を持って交渉することが重要です。
SESから自社開発へ転職する際、職務経歴書で一番大事なことは何ですか?
常駐先の社名や案件名を並べることではありません。むしろ「何を任され、どう考え、何が変わったか」を具体的に書くことです。案件数の多さよりも、1件ごとの判断の質と成果が伝わる書き方が評価されます。

キャリアの進め方についての質問

SESから一度フリーランスになってから、正社員を目指すのはありですか?
あり得る選択です。実際に筆者が面談した方にも、客先常駐からフリーランスを経て、正社員に戻った方がいました。ただし、フリーランス期間の経験を職務経歴書で説明できることが前提です。正社員に戻る流れはフリーランスエンジニアが正社員に戻る完全ガイドで解説しています。
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まとめ

SESエンジニアの年収が伸び悩む理由は、「受託だから」という職種の問題ではありません。なぜなら、公的統計上、受託開発と自社開発の平均年収に差はないからです。実感される差は、多重下請け構造による中間マージンに起因することが多いのです。あるいは、自社の等級制度に起因することもあります。やることはシンプルです——①いまの技術レベルを把握する→②経験を事業貢献の言葉に翻訳する→③契約構造の違いを理解して交渉する。その第一歩として、まずは自分の想定年収レンジを知るところから始めてみてください。志望動機の組み立て方はフリーランスエンジニアの志望動機の書き方と例文にまとめています。

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この記事の一次情報源

  1. 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」システムエンジニア(受託開発)/システムエンジニア(Webサービス開発)(数値根拠:令和7年賃金構造基本統計調査/令和7年度ハローワーク求人統計)
    https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/312
  2. 経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(令和2年12月28日公表)
    https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation_kasoku/pdf/20201228_3.pdf
  3. 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(平成31年4月公表)
    https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf
  4. 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
  5. 株式会社LX「エンジニア・フリーランス支援事業者との面談記録」(2026年7〜9月実施・筆者が聞き手)※個人が特定されないよう匿名化して引用

関連コラム:lxdx コラム一覧(フリーランス→正社員リターン、職務経歴書の書き方などを公開しています)。運営会社の詳細は運営会社ページをご覧ください。

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